符合と兆候
ベルリンを拠点に活動する画家、平井晴香の絵画を本の形式へとパラフレーズすることを試みたアーティスト・ブックです。本書では、平井が2021年と2022年にアムステルダムで開催した2つの個展のための絵画のモチーフとして制作されたコラージュと、会場となった展示空間を素材として、絵画が持つ空間性について言及しています。
平井が近年制作する《corner painting》シリーズは、作家自身の手による、矩形を対角で浅い角度に折り曲げたような、特殊な形状の支持体に描かれています。このシリーズは、頁の端を折り曲げることによって、その頁が単一の平面であることから、空間を孕みつつ異なる平面へと接合されること、その可能性から着想されました。絵画は通常、絵画自体が架けられている空間と、絵画の内部に描かれる空間の2つの空間を作り出します。ここに平井は、変形された支持体によって生じる絵画の背面と壁面との間に発生する、3つ目の空間を挿入します。この僅かに開かれた空間によって、画面を規定する対角の境界に隔てられた要素が、偶然にも1つの支持体へと収められていることと、他なる場所へ想起的に転移され得ることが提示されます。
こうした平井の絵画における試みを、本書では再び本という場所へと送り返します。表紙に施された筋入れ加工は絵画における対角の境界を象徴的に敷衍しつつ、本文では頁のリニアな構造を獲得することによって、コラージュは自らが占める面積をリズミカルに変化させています。また、断片的に現れる展示空間は、実際の建築における整合性から離れ、非連続な造形的操作によって再構成されます。それぞれの要素は本という空間のなかで、留まる場所を定めつつも、それは決して静止するものではありません。頁を捲る行為に働きかけながら、コラージュと展示空間は、隔てられた束の間の場所から、想起的に作り出される3つ目の場所に向けて動き続けるのです。
ページ数: 56
サイズ: 141 × 205 mm
フォーマット: ソフトカバー
刊行年: 2024
編集: 川越健太
デザイン: 林頌介
出版: 平井晴香
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